アンジェリコ、君の気高く赤い10代へ~COCOON 月の翳り・星ひとつ

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1年ぶりの記事です。

twitterでは延々推し語りしてたのですが、今回ばかりは安西ファンとして何か書き残しておかなくちゃと思い、久々にブログを書きました。

この作品で安西慎太郎という役者を知った人に、また久し振りに彼の芝居を観て感じるものがあった方々に届くと嬉しいです。

 

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COCOON

決まったときはついに…!とまさか…!?いう気持ちが半々ぐらいでしたが、それよりもTRUMPファンで安西くんを知る方々からの反応が予想外に凄かったのが驚きました。

『安西くんの繭期は絶対にしんどい』『死ぬより辛いやつが待ってる』などなど…。

もう皆さん、彼が繭期前提で話すのが一周回って面白かったですが(笑)、ああ彼の芝居ってこんなに色んな人の心に爪を立てていたんだなあと嬉しくなった瞬間でもありました。

 

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COCOONを観る限り、未満さんは一見耽美で異常な世界観=『ぜんぶ繭期のせい』に見せかけているだけであって、至って普遍的な人間の未熟さや愚かさ、危うさ、哀れさを剥き出しにしているだけなんだよなって思います。

繭期として少々誇張されているものの、彼らクランの少年たちの激しい在りようは思春期の葛藤や思い込みの激しさ、すれ違い、怒り、ままならなさをストレートに表現した群像劇なのだと。

そして、そういう思春期の愚かさを、きっと末満さんは愛して慈しんでいるんだろうなと。

(これは舞台K・Lost Small Worldでも同じだったのでより確信しました。

ちなみに安ジェリコが好きな人はこの作品で安西くん演じる伏見猿比古も絶対好きなので観てほしい)(宣伝)

 

人と人の心のすれ違いにドラマは生まれるものだけど、COCOONは繭期がどうというより『どうして人はわかりあえないのだろう』が根底にずっと流れていて、あまりにやるせなくなる。

あの世界の少年たちだけじゃない、大人たちもそうでしたね。

そして私たちの生きる世界もまた同じだなと、しみじみと思います。

なんで分かり合えなくなってしまうんでしょうね。お互い同じ言葉を持って、話し考える力を私たちは持っているのに。

 

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安西くんの演じるアンジェリコは、贔屓目かもしれませんが役者・安西慎太郎の芝居の魅力が凝縮された、ここ数年の総決算のような役でした。

安西くんの芝居はしばしば『狂気』の言葉に凝縮されがちですが、

(実際に冷静から激情へトップギアで駆け上がる感情の切り替えの激しさは見事です)

厳密にいうと狂気に至るまでの感情のグラデーションが非常に丁寧に表現できる役者さんである事に、私はとても信頼を置いています。

そして彼の芝居の特徴である幼児性、執着心、いとおしい程人間らしい愚かしさ。
そこに本来の持ち物である品の良さへ「高貴さの説得力」が加わりました。
アンジェリコは本当にその全部が詰まってる気がして、いま彼は自分の引き出し全部を引っ張り出してアンジェリコを生きているんだろうなって思いました。

 

また、物語の主役として作品全体の激しい感情のうねりを作り上げていたのが『月』なら、
物語の一部として強烈なスパイスになっていたのが『星』と、作品ごとにきちんとポジションを変えて演じていた事も良かったです。

 

私はやっぱり『月の翳り』がとても大好きで、アンジェリコの繭期の狂気を表現する以前に、あの話で彼の本来の高貴さ・プライド・埋められない愛情の欠乏感を丁寧に描いてくれた事がとてもよかったです。

気高くてとても美しかった。そしてそのぶん、本当に哀しい子どもだった。

あんなに愚かに醜く、みっともなく、まるで嘔吐するように叫び続ける彼の姿に、きっと観た多くの人が、あの子を「いとおしい」と思ったのではないでしょうか。

 

もうこれは何年も何年も言っている事なのですが、

『人の生き様は本当はみっともなくて愚かで、だからこそとてもいとおしいという事を繊細に表現できる役者』

これこそが役者・安西慎太郎の最大の魅力だと思っています。

yoshida-htn.hatenablog.com

↑数年前からだいたい同じこと言ってる証拠ブログ


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あと今回すごく嬉しかった事は、過去の作品のアンジェリコのファンの方がすごく喜んで下さった事と、アンジェリコの父であるゲルハルトにとてもよく似ていたというツイートを多く見かけた事です。

 

安西くんはおそらくこれまで「これまでの〇〇とは違う芝居を」「自分なりの〇〇を演じたい」という言い方は決してしてこなかった役者です。

これまでのTRUMPシリーズが好きな方、過去の同役を好きな人に敬意を払い、それでいて彼にしかできないアンジェリコが構築されたのが伝わったのかなと、ただの一ファンですがちょっと誇らしいです。

 


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今回は推しくん以外も素敵すぎるキャストさん揃いで、特に安西くんの激しい芝居を毎公演柔軟に受け止め、舞台上で戦い続けてくれた荒木宏文くんの役者としての包容力、

水のようにスルリと滑り込んできて、知らぬ間に大きな流れを作り出している宮崎秋人くんの芝居の静かな巧みさ、

もはや人ではない、何百年もの時を生きてきたような恐ろしさが全身から溢れていた陳内将くんの妖しさと説得力、

尊大で朗々とした語り口がまさに高貴なダリ卿そのものだった、染谷俊之くんの誰よりも華のある存在感。などなど…。

末満さんがこの作品の『生々しい感情がぶつかり合う群像劇』のために、美しく、芝居心のある精鋭ばかりを揃えて臨まれた事がとてもよくわかります。

 

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アンジェリコ、あなたは本当にいい子だったね。

誰よりも気高くて、お父様を尊敬していて、きっと繭期さえ越えられれば誰よりも立派な貴族としてフラ家の当主になれたでしょう。

出生の秘密を知らず逝けた事だけが、唯一の救いでありました。

あなたが愚かなほど全身全霊で気高く燃え尽き、駆け抜けていった10代の赤い色を、観客の私たちはきっと忘れない。