カプティウス~小さな箱の中で、彼はひたすらに命を燃やす

四方を囲まれた狭い空間で、85分ずっと1人で語り続ける安西慎太郎。特濃でした。

 

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『captivus』カプティウス:ラテン語で『囚人』。

なるほど、四方を客席で囲まれた狭い狭い舞台。行き場のない閉塞感。

開演前後のみ撮影可能でした。実際の舞台がこちらです。

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(黒塗りがとてもヘタなのは見逃してください)

これはアフタートークの仕様なので、本編では椅子は1脚と、あとは衣装がハンガーのまま置かれていました。

すごく蛇足ですがこの椅子、IK〇Aで購入した安西くん家の私物だそうです(笑)。

 

個人的には、1人芝居というよりも1人語りの舞台という印象でした。

アナウンサーの古舘伊知郎さんがかつてライフワークになさっていた『トーキングブルース』というのがあるんですけど、古館さんがあの怒涛の話術と熱量でひたすら2時間(!)、台詞を1人語りしまくる凄まじい舞台です。

私は映像でしか拝見した事がなかったのですが、観ている最中にそれみたいだなって感じました。

脚本・演出の下平さんがアフタートークで「演劇はもともと演説から派生したという説があるから、1人芝居は演劇の原点だと思っている」と仰ってて、よけいになるほどと思いました。意識はしてなかったと思いますけどね。

 

バースツール(椅子)の話、『人間失格』の男の話、そして舞台の上の『男』のこれまでの生い立ちの話。

淀みなく語り続ける『男』の在り様はそれだけで迫力がありました。

『男』の生い立ちには壮絶すぎて滑稽ささえ感じる転落人生と、記号のように男に消費されている女性と(個人的にはこの記号的な女性の描き方がかなり不快でした)、ところどころ「3人姉弟で姉が2人」「野球をやっていて」など、『男』が安西くん自身だと思わせてしまうような仕掛けがありました。

この『フィクションに演者のリアルを混ぜる』手法、不穏な想像やエキセントリックさは掻き立てますが、安西くんの降ろしている役に没頭したい人には、彼の素を連想させる要素はちょっと集中を削がれるものだったようには思います。これも個人的な感想です。

 

そしてラストは、「生きている以上生きるしかない。生きましょう。生きて下さい」と、政治活動家アジテーションのような激しい口調でまくしたてていく怒涛のラスト。

あの激しさは、私には祈りのように見えました。

男への鎮魂なのか、観客の私たちに対しての祈りなのかわかりませんが、ちょうど私が最初に観に行った日がもう絶望のど真ん中みたいな状況だったので(激重で暗い案件なので詳細は避けます・笑)、なんだか泣けて泣けて仕方なかったです。

安西くんの演じる姿は命を燃やすようだといつも思っているのですが、特にこの時はエネルギーが激しく渦巻いていて、同じ人なのにお面を付け替えるように表情がどんどん変化する事にすっかり見入ってしまいました。

 

私にとっては、このラストの激しさが免罪符…あるいはお守りのような救いでもあり、反面もう二度と観たくないような生への呪いのようでもあり。

翌日はカプティウスのあのラストシーンがべったりと頭に貼りついてはがれないような感覚がずっとあって、ぐったりしていました…。

他の方の感想拝見してると、私のようにキマってしまった方がちらほらいらっしゃって「あっ、ひとりじゃない」みたいな安心感がありました(笑)

 

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安西くんがフリーになって、「応援してくださってる方々に感謝を返すには何がいいだろうと話し合った結果」1人芝居になったという経緯との事ですが。

観終わって落ち着いて、一番最初に思ったのは

『自分の作品をこんだけ全身で表現してくれる役者に出逢えて、下平さん絶対幸せだったろうな』っていう事でした。

色んな意味を内包して言いますが、非常に作家性の強い作品だったなあと思います。

 

いやあ、自分の作品にこんだけ喰らいついて、どんな要求にも応えてくれる役者、嬉しいに決まってるでしょ。

安西くんが同じ演出家さんに繰り返し起用されたり、またやりたいってラブコールされてる事にすごく納得しました。

 

安西くんの芝居と作品への評価は切り分けて話したいので、正直申しますと、この作品自体はあまり好きではありませんでした、

ただ、安西くん・下平さんを主体にしたチームで、いかにも小劇場の自主公演といった若さと野心と、凄まじい熱量に溢れた作品をこの時期に上演するのはとても面白い試みだったと思います。

私もアート系の専門学校を出ていたので、ああこの感じは懐かしいなあと思いました。学校で活躍が目立っていた人の中にこういう人たち多かったなあ、懐かしいなあと。

もっとも彼らには、あんまり今回の公演を『若さ』で片づけられるのはめちゃくちゃ嫌だと思われるかもしれませんけどね(笑)(ごめんね)

 

舞台の上でフラフラになって喉を枯らしながら、1人で本当によく戦ったって思います。安西くん。文字通り『戦い』だったろうなと。

客席を睨みつける顔はまるで悪魔か鬼のように壮絶だった。でも、すごく美しかったです。

ただただ、安西慎太郎という役者が命を燃やす姿が好きだって思いました。

 


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これはTHE ALFEEの高見沢さんがライブで言っていて、15年以上経ってもいまだに忘れられない言葉なんですけど。

「人は誰も、鳥かごの中に閉じ込められていると思って生きている。でも、もしかしたら、鳥かごの扉は本当は開いているのかもしれない」

私もたいがい悩みやすい性格なので、自分が閉塞感に駆られるたびにこの言葉をよく思い出します。

 

私はあの『男』を、囚人だとは思っていません。

自分を見ているようだと思ってしまったからかもしれません。

だから彼が鳥かごの中で生きるという『希望』と『呪い』の狭間でもがいているのなら、せめて鳥かごの扉が開いていてほしいと、狂おしいほど心から願っています。

 

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このPV、舞台本編のプロローグになるそうです。

フード付きのアウターを脱ぐと、舞台で最初に着ていた黒い衣装になるのだとか。

彼はどこに行きついて、あの独白を始めたんでしょうね。